3/21/2014

修復

ある日、父が事故で病院に運ばれました。
病院に行くと父がベッドに意識不明で寝ていました。 
父のベッドの脇には母が放心した顔で泣いて座っていました
怪我で運び込まれた病院で3時間ほど待たされたけれど、レントゲンを撮って診察された結果「この病院では対処出来ないから、より大きい病院に行って下さい」と言われて救急車に乗ってこの病院に来たけれど、またレントゲンを撮り先生の診察を受け、それからまた一時間程カーテンで区切られたこの大部屋で{先生の指示を}待っているそうです。
この部屋は地下で窓がなく、照明がものすげー眩しい感じです。
一つ一つカーテンで仕切られているけれど、ベッドが八つ入る大きさです。

隣には奥さんに付き添われた南米人の男性が寝ています。
向かいには若い男性が居るようなのですが、酔っているようで大きな声で騒いでいます。
「俺はただバーで飲んでいただけだ、そしたらいきなり警察を呼ばれて殴られたんだ。誰が縛られている俺の手足を今すぐ解いてくれ。 俺は手を縛られるのは耐えられないんだ。俺はただマリファナを吸ってただけだ。それは別に違法ではないんだ。誰か、手だけでいいから解いてくれ。俺は縛られるのは嫌だ。」
あまりに長く叫び続けるのでたまりかねたのか隣の南米男性が「シャラップ!」と言いました。
すると若い男は「テメエ、上等だ、掛かってこい」と益々叫び続けます。
{ああ、難儀だ!! 神様どうしたら良いですか。}
父が咽て咳き込みました。 すると若い男性は自分が挑発されたと勘違いして、「何だテメイもやるのか。オラ!」と言葉ですごんで来ます。
{ああ、嫌だな。 相手を憎んじゃいそう。 神様助けて。 出来るだけ、あれこれ考えない良いうにしよう。}
その内若い男は勢いを付けて拘束されている椅子ごと動き出して、大部屋の中から出て行き始めたところで捕まっちゃったようです。 (カーテン越しなので、実際には見ていませんが、聞える音からそう推察しました。)

その内に看護婦さん達が来て「これからMRIを撮りに行きましょう」と言われました。 
そして看護婦さんがカーテンを開けると、向かいの若い患者さん(今まで暴れてた人です)と目が合いました。 ドレッド頭のやたらとガタイの良い青年です。
【お前、いい加減にしろ。こっちは大変なんだぞ。】と言いたかったけど黙っていました。 {一応睨んどいたけど。} 

父はベッドと共にMRI室に運ばれて、意識があるんだか無いんだかわからないけど、ある程度受け答えはしつつ(しかし移動はかなり痛そうでした)、MRIの撮影を終えるとまた大部屋に戻ってきました。 {あれ! ドレッドの兄ちゃん居ないな、誰かやっと気を利かせて別室に移してくれたのかしら。} 

暫くすると二人のドクターがやって来て、
「肩甲骨がバラバラに割れて、鎖骨が二つに割れて、それから肋骨が割れて肺を突き破っており、肺がつぶれているので今から胸にチューブを挿入して、肺を膨らませると同時に肺に溜まった体液を吸い出します。 今夜は大変混雑しているので、この手術は今この待機室内で行ないます。」と言いました。
女性のドクターが指示を出して、男性ドクターがその指示に従って手術を進めて行きます。
左乳首の少し下をメスで切り裂いて出来た隙間から透明のチューブを差し込み、それを肋骨の間に通そうとしています。 しかし肋骨の隙間に対してドクターの指が大き過ぎるようで、なかなかチューブが上手く入って行きません。
ドクターがチューブを押し込もうとする度に父が呻き、父の足を押さえていた母が小さく「痛い痛い」と叫びます。 私は父の頭を押さえながら「胸を切り裂かれて、まるでキリストのようだな」と思いました。「そうだ、もう一回祈ろう。」

かなり時間が掛かりましたが、なんとかチューブが入りました。
しかし余りに手際が悪いので「あなた、この手術をするのは始めてですね?」と私はドクターに尋ねました。 彼の返事は「ハイそうです。」 
{実験台かよ! 馴れてる方の先生がやってくれたらよかったのに。と私は思いました}

チューブが上手く肺の中に納まっているか確認する為に、またレントゲンを撮る必要が出ました。 {また、親父の体を動かすのかぁー! ハァ!!}
レントゲンを撮り終わると、一人の看護婦さんがやって来て「患者室が開いたので、お父さんを上に移しまよう。」と言いました。 ベッドごと父を運んでくれる男性がやって来て、地下一階から八階まで移動しました。 
八階の病棟に入ろうとしたところ、先ほどの二人組みのドクターがやって来て「先ほどのレントゲンを調べた所、チューブが上手く挿入されていないことが解ったので、やり直します。」と言いました。
「今度はあなたが手術をしてくださるのでしょうね?」と私が女性のドクターに尋ねたところ、「ハイ、私がします」と仰るので、
母には別の部屋で待ってもらって、新しい患者室の中でもう一度チューブを挿入し直してもらいました。 女性のドクターはとても手際良くて手術は10分も掛かりませんでした。
その時点でもう夜の3時頃なので、私と母はそれぞれ椅子の上で眠りました。

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この話から6ヶ月経った現在、父は週に数回スキーに行ってますね、一人で車を運転して。

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